奉納 – たなかなつみ

 突如始まったそれはジャワのものだと聞かされる。それは二人の女性による舞踊であり、二柱の神による戦いである。神々は弓矢を手に持ち、ゆったりと動き続ける。表情豊かなその手の動きが幾重にも意味を紡ぎ続けるが、神の言葉は私たちにはわからない。地の上に垂らされた長い衣装の裾と腰から伸びる長い布とを静かな足の動きでさばきながら、神々は戦い続け、進み続ける。天上から心地よいガムランの音が響き続け、二柱の神はゆっくりと天に向かって昇り続ける。私たちが見ているのは舞踏である。けれども、そこにいたはずの踊り手はもういない。

――了――

※初出:”Offerings to Heaven” translated by Toshiya Kamei, in Kelly Matsuura ed., Southeast Asian Fantasy Drabbles (Insignia Drabbles 2, BWWP Publishing, 2020)

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