夏の終わりのエンドマークを探して、ぼくは出かけた。野球帽を深くかぶって、虫とり網をにぎりしめて、この夏いっぱいお世話になってどろどろに汚れた運動靴の紐をぎゅっと結んで。でっかい入道雲が広がる、うすい水色の空の下。
探せばすぐに見つかるだろうと思っていたのに。ぼくは思い出のなか、息を殺して目を凝らす。蝉の抜け殻をいっぱい集めた林の中。追いかけっこをしてはまりこんだ川の岸。スイカの種をとばしっこした庭のすみ。絶対どこかにいるはずなんだけど。
夕立の中ずぶぬれで走った農道。カブトムシに網をかけたとたんヘビが落ちてきた森の中。宝物をいっぱい埋めた空き地の端っこ。ぼくはエンドマークを探して走り続ける。
やがて空は朱色と群青色のまじった夕暮れ。ぼくの耳に届いてくる虫の声。
途方に暮れたぼくは空に浮かぶ白い月を見上げた。すると虫とり網から涙がぽろり流れでた。小さくてきらきらしていた。夏の終わりのエンドマーク。
ぼくはちょっと考えて、それを口に放り込んだ。甘いような苦いような懐かしい味がして少し泣けた。ぼくの夏が、とけていった。
――了――